駒井れん 『パスカルの恋』 朝日新聞社

パスカルの恋

パスカルの恋

 「駒井れん」は、石井睦美の別名義。ゆっくりゆっくり読みました。
 石井睦美『卵と小麦粉それからマドレーヌ』は、中学生の菜穂と亜矢が友達に「なっていく」ようすが描かれていて、それがとっても好きだったのでした。『パスカルの恋』の語り手・皓子とその女友達の香苗が、お酒をのみながら話すシーンを読んで、菜穂や亜矢が大人になったらこういう交流のしかたをするんだろうなあ……と思いました。『パスカルの恋』というタイトルの意味も、その二人の会話の中で明らかになります。
 「母と娘」という関係のやっかいさとか、「家族」のややこしさとか、誰かを好きでいる時の不安定さとか……生々しい部分に踏み込んでいるはずなのに、生きているとどうしてもまとわりついてくる嫌なことに向き合っているはずなのに、どろどろした感じはしないところも、『卵や小麦粉〜』に通じるなあ。
 しかし、皓子の恋する相手であるところの藤沢さんの、「僕のこころは、あなたのこころのように丈夫でもないし真っ直ぐでもない」って台詞には少々むかついたかなー。誰かの心が誰かより丈夫だとか真っ直ぐだとかどうやったらわかるのさっ。いや、自分より自分以外の誰かの方が丈夫だとか真っ直ぐだとか生きていきやすそうだとか思う瞬間はあるのかもしれないけれど、そうそうかんたんにそんなこと口に出してほしくはない……というか、わたし自身が口に出したくないと事柄のひとつだなあ、とか考えました。