サマータイム(佐藤多佳子)

サマータイム (新潮文庫)

サマータイム (新潮文庫)

 『サマータイム』『五月の道しるべ』『九月の雨』『ホワイト・ピアノ』と、4つの短編が収録されています。

 『サマータイム』で描かれるのは、「ぼく」こと進が小学五年生だった時の夏。進と一つ違いの姉の佳奈と、進が雨の降るプールで出会った、彼よりふたつ年上の広一とが共有した時間。ひまわりとか、蝉しぐれとか、残っている宿題とか・・・夏休み特有のものがもつ雰囲気が、文中から立ちのぼってくる感じ。

 『五月の道しるべ』は、『サマータイム』で「外側だけはカワイイ」と弟に評されていた佳奈が、七歳だったころのお話。

 何かに熱中して、思いがけず時間がたってしまったことに気づくと、いつもちょっとだけこわくなる。

 たぶん、子ども特有の、ひとつのものへのこだわり方がよく表されている気がします。こういうものの感じ方をして、大人から見ればどうでもいいようなものに執着した、そんな時期はきっと誰にでもあるのではないかな、と。

 『九月の雨』の語り手は、十六歳の広一。『サマータイム』から三年後。母親への、母親の恋人への、イライラを抱える彼。
 広一にとっても、進と佳奈と過ごした時間は特別なものであることが感じられて、「思い出と呼ぶには、まだ近すぎて、なまなましくて、胸が痛い(P.120)」という記述にきゅんと切なくなりました。

 『ホワイト・ピアノ』での語り手は、十四歳になった佳奈。佳奈と、ピアノの調律師のセンダくんのやりとりが楽しい。ラストが『サマータイム』とつながって、時間を越えて思いが通じ合ったようで、やっぱりきゅんとなりました。