樹上のゆりかご

樹上のゆりかご

樹上のゆりかご

「ひとが不愉快になることは言わないのが、社会の常識でしょう」
「社会じゃないもん、学校だろ」
「学校だって社会です」
「ちがうよ」
 断言するので、私はびっくりした。
「ちがうはずないじゃない。人が集まれば社会になるのよ。どんなところでも」
「おんなじだったら、学校に通う意味がないだろ。本音を言わなきゃ。おれたちが学生でなくなって、本音を言ったらたたきつぶされる場所へ行く前に」(P.166)

 荻原規子さんの著作の中では唯一、「ファンタジー」と銘打たれていない作品。『これは王国のかぎ』で中学生だった上田ひろみの、高校生活を描いた物語。学園ものとして、これ単体でも(『これは王国のかぎ』を読んでいなくても、充分に)楽しめると思います。


 舞台は、男子校の伝統が残る都立高校。女の子であるひろみは、伝統から拒まれているような、居心地の悪い思いをすることがたびたびあります。

 アカペラで歌うと決められている合唱祭、演劇コンクールに体育祭と、名の知られた進学校のくせにとんでもなくイベントに力を入れるこの学校で、合唱祭で配ったパンにカッターの刃が仕込まれていたのが、ことのはじまりでした。


 ひろみの心情には、共感できるところが多々あって、ひきこまれて一気に読めました。男女の決定的な違いについて、なんだかふかーく考えさせられてしまいます。