ロリヰタ。(嶽本野ばら)/新潮社

ロリヰタ。

ロリヰタ。

ロリヰタ。』『ハネ』の2編が収録されています。


ロリヰタ。】伝えたいと一生懸命に紡いだ言葉が誤解されて独り歩きする痛みにやりきれなくなりました。でも、どんなに周囲に誤解されても、一番わかって欲しい人にわかってもらえている、そういう救いがちゃんとあってよかった・・・

自分の考えていること、思っていることを、相手に全部、ちゃんと伝えようとするから、話せなくなるんだって。気持ちって、言葉なんかじゃ、半分も伝わらないの。言葉ってそういうものなんだって思ったら、急に、楽になったの。(P.156)

【ハネ】自分の抱えているものはいろんな気持ちや要因が交じり合ったもので、そんなに簡単にひとつの理由にまとめて語れるものじゃない。けれど簡単な、わかりやすい理由でなくては周囲の人は納得してくれない。鋳型の中にはめこまれなければ安心してくれない。そういうもやもやした気持ちがぐあーっとせりあがってくるので読んでいて苦しくなります。
 けれど、この話の語り手である彼女は自分の痛みにしか気持ちが向いていない感じがするのでした。いや、自分の痛みでいっぱいになって何も見えなくなっても仕方のない辛いできごとを経験しているのだけれど。でも、彼女の両親など、自分を大事にしてくれている(両親が彼女の気持ちをわかっていなくて、彼女が辛い思いをしているとしても、だ)人たちの思いを、あんまりにもないがしろにしている気がするのでした。
 それでも彼女にとって、大きなハネを背負って路上に立つ行為は、守らなければいけないことで。自分の大切なものを大切にしている彼女を責めることはできないのだけれど。

 馬鹿かもしれません。そう思われても構いはしない。でも、どんなにくだらないものでも、価値がないものでも、大切にする気持ちを何故に否定されなければならないのですか。(P.210)

(前略)大多数のものとは異なるというだけで、それらに歩み寄ろうとしないで、蔑視され、嘲笑われ、怒られ、恐怖の対象とされ、罪びとの烙印を捺される。それならば、個性が必要だとか、自由が大切だとか口にしないでください。
(中略)人と違う思考や行動をしていても、不良だからとか、精神的に不安定だからとかいう解り易い理由があれば、安心出来るのです。全く異質な生物であるから仕方あるまいと納得するのです。グループ分けをして、その中に入れることが可能ならば、そのグループのことが理解出来なくても、認知するのです。