村田エフェンディ滞土録(梨木香歩)/角川書店

村田エフェンディ滞土録

村田エフェンディ滞土録

 時は1890年代末。歴史文化研究のためにトルコにやって来た青年・村田。彼にとって「芯なる物語」となる、異国での悲喜こもごもが綴られています。

 豊かな退廃など、私は今の日本に想像すら出来なかった。祖国が少しでも豊かになって欲しいとの思いで必死、いつ来るかわからぬ危険な豊かさへの懸念など、まるで寄せ付けなかったのだ。それはほとんどの日本人に共通している思いであろう。(P.90)

 100年とちょっと前には想像もつかなかった「豊かな退廃」のまっただかにいるのだなぁと思いました。

「我々は、自然の命ずる声に従って、助けの必要なものに手を差し出そうではないか。この一句を常に心に刻み、声に出そうではないか。『私は人間である。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない』と」。(本文P79)

 宗教も民族も違う人々との生活、出会いと別れ。その中で、この「私は人間である。およそ人間に関わることで私に無縁なことは一つもない」という言葉がくっきりと浮かび上がってくる気がします。


 家守綺譚とささやかにリンクしているのもうれしい。