ポプラの秋(湯本香樹実)/新潮文庫

ポプラの秋 (新潮文庫)

ポプラの秋 (新潮文庫)

 主人公の千秋が「ポプラ荘のおばあさんが亡くなった」という知らせを受けることから物語は始まり、千秋がポプラ荘で過ごした時代と、その18年後の現在が描かれます。

 小学1年生の夏、父親を亡くし、母親と「ポプラ荘」というアパートに移り住んだ千秋。転校し、環境ががらりと変わった新学期が始まってからも、父の死そのものを受け入れ、理解する段階には至っていなかった彼女は、不安と緊張でとうとう体調を崩してしまいます。
 底知れない不安感を抱きながら、からだが言うことをきかなくなってもがんばろうとする千秋のようすは痛々しいです。体調を崩した秋の日から、ポプラ荘の大家のおばあさんと言葉を交わすようになって、外の世界と少しずつ関われるようになった時には、本当にほっとしました。「あの世への郵便屋」なのだとおばあさんが名乗ってから、一生懸命に父親に向けて手紙を書き、おばあさんに渡す千秋がいじらしいです。

 冒頭で、千秋が看護婦になったこと、けれど勤めていた病院を何らかの事情によりやめてしまったことが示されています。千秋がどんなことで傷ついたのかは終盤で明かされます。
 おばあさんはたくさんの手紙を預かり、保管していたことで、小学1年生当時の千秋だけでなく、父の死への頑なな拒否感をもつ母に複雑な感情を抱いたり、あることで傷ついて捨てばちになっていた18年後の千秋も救ってくれたのだという気がします。

 死を見つめなおすことで、生きることに向き合えるようになる物語でした。