「ひとが不愉快になることは言わないのが、社会の常識でしょう」
「社会じゃないもん、学校だろ」
「学校だって社会です」
「ちがうよ」
 断言するので、私はびっくりした。
「ちがうはずないじゃない。人が集まれば社会になるのよ。どんなところでも」
「おんなじだったら、学校に通う意味がないだろ。本音を言わなきゃ。おれたちが学生でなくなって、本音を言ったらたたきつぶされる場所へ行く前に」

 荻原規子『樹上のゆりかご』(理論社)本文P.166