だれも知らない小さな国(佐藤さとる)/講談社青い鳥文庫

 小学三年生の頃、「ぼく」が自分だけのひみつの遊び場にしていた小山には、「こぼしさま」という小さな小さな人たちがいるという伝説がありました。
 ある夏の日、自分に向かって手をふる、小指ほどの大きさの小さな人たちを見た「ぼく」ですが、大きくなるにつれそのことを思い出さなくなっていきます。
 主人公が中学生の頃、日本は戦争の渦に巻きこまれていきます。終戦を迎えた後の、「ぼくは、焼け野原になった町に立って、あつい雲が晴れるように、ぽっかりと小山のことを思い浮かべた」場面がとっても印象的。


 新しい道路を作る計画が持ち上がり、このままでは小人の国がある場所がつぶされてしまう、という危機がせまった時。その計画をやめさるために、「ぼく」がひょんなことから思いつき、彼らにとらせた方法がとってもいい。


 戦争中の描写は、むやみに残酷さを強調するのではなく、淡々としているのだけれど、すごくリアルです。

 毎日が苦しいことばかりだったが、また底抜けに楽しかったような気がする。家が焼けたことを、まるでとくいになって話しあったり、小型の飛行機に追いまわされて、バリバリうたれたりするのが、おもしろくてたまらなかったりした。これは命がけのおにごっこだったが、中にはおににつかまってしまう、運のわるい友だちも何人かあった。いまになってみれば、ぞっとする話だ。(P.44)


 もっと早く出逢いたかった、と心底思う本でした。