ライオンハート(恩田陸)/新潮社

ライオンハート

ライオンハート

 「エアハート嬢の到着」「春」「イヴァンチッチェの思い出」「天球のハーモニー」「記憶」と、5つの物語に分かれています。
 1932年のロンドン近郊で、1871年シェルブールで、1905年のパナマで――時を越えて、エドワードとエリザベスのふたりはさまざまな場所で出会います。出会う前から何度も相手を夢に見て、自分の幻想ではないかと疑いながら、夢に現れるその人に実際に会いたいと願い続けても、実際に会うことができるのはほんの短いひとときで、すぐに別離が訪れます。出会えないまま人生を終えてしまうことすらあるのです。
 「時を越えて何度も巡り会う」というと、とてつもなくロマンチックなお話に思えるのですが……いや、えっと、とってもロマンチックなお話にはちがいないし、「会った瞬間に、世界が金色に弾けるような喜びを覚えるのよ…」とか一部の台詞だけ抜き出すと、恥ずかしくなってしまうほどなのですが、全体を通して読むと決して過剰に装飾されている感じはしなくて、読んでいて心地いいのでした。
 素敵な物語にどっぷり浸れて、読んでいるあいだじゅう幸せでした。


 えっと、恩田さんの作品を読むたび(すべての作品を読んでいるわけではないので、えらそうなことは言えないのだけれど)、登場人物が他の人物を好意的に評するときの表現が好きだなあ、と思います。

率直さを自分の性質として承知しているが、それを披露する相手やその度合いをきちんと読める聡明さが気に入っていた。彼女の方も私が彼女の鼻っ柱の強さを楽しめる相手と気付いたのか、私を見掛けるとちょくちょく絡んでくるようになった。(P.130)

 とか、

何十歳も年上で、初めて見た彼は、おじいさんと言ってもよい人だったけれど、とても美しかった。あんなに美しい、知性と感性が若々しくきらめいている男性にこれまで会ったことはない。(P.189)

 とか。いいなあって思う…