逆自意識過剰

愛がなんだ (角川文庫)

愛がなんだ (角川文庫)

 主人公山田テル子と、彼女の好きな人・マモちゃんとのやりとりから抜粋。

「おれさあ、山田さんのそういうとこ、ちょっと苦手」(中略)「そういう、五週くらい先回りしてへんに気、つかうとこっていうか。逆自意識過剰っていうか」(P.111)

「じゃ、またな」
 マモちゃんは噛んだガムを道ばたに捨てるようにそう言って、改札口へと走っていく。私も向かう先は、改札口なのだが、私といっしょじゃいやなのだろうとその場でマモちゃんのうしろ姿を見送り、これもまた五週先回りの逆自意識かとはたと思い、ならばいっしょに帰ろうとマモちゃんを追いかけようとし、しかしそういうあれこれを考える自分にほとほと嫌気がさして、結局そこから動けずにいた。(P.112)

 あーうー、なんだかすっごくよくわかってしまう。こんなことしたら嫌われるんじゃないかとあれこれ考えた末結局動けないっていう。
 もしかしてわたしも、友達とか、周囲の人にそういうところが苦手だと思われてたりしてと心配になり、いやいやこういう心配をすること自体が「五週先回りの逆自意識」なんじゃないか、と……ぐるぐる考えてしまいました。はあ。


 好きな人以外はすべて「どうでもいい」に分類してしまうテル子に、感情移入はできないのだけれど。自分が住んでいない町のよそよそしさだとか、相手に期待しすぎないように必死で悲観的仮定を思い浮かべる思考回路だとか……そういう、誰もが経験したことのありそうな気持ちが、簡潔に文章化されていて、すごく共感できるところもあるのでした。