フィリパ・ピアス 高杉一郎訳 『トムは真夜中の庭で』 岩波少年文庫

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

トムは真夜中の庭で (岩波少年文庫 (041))

 おじさんの家にあずけられたトムは、真夜中、古時計が13回鳴ったとき、あるはずのない庭園に行けることに気づきます。そこに現れる人々には、どうやらトムの姿は見えない様子。でも、ハティという女の子は、トムに気づいて話しかけてきます。庭園は、時間の流れ方がトムの側とは違うようで、トムは最初に会ったときより小さなハティや、どんどん大人になっていくハティを目にすることになります。
 最初はこの家に滞在するのにうんざりしていたトムですが、次第にこの庭園の世界は彼にとってかけがえのないものになります。庭園に現れる人々の服装やハティの言動から、どうやらここは過去の世界のようだとあたりをつけ、どの時代なのか百科事典で調べたりもします。
 自分の家に帰らなくてはならない日が近づいてきた頃、庭園の世界に少しでも長くいるために、トムはハティの自分とのあいだにある「時間」の問題についてあれこれと考え、行動を起こします。
 トムが体験した不思議なできごとが、どういうきっかけで起こったのかは、終盤で明かされます。切ないけれど、じんわり心があたたかくなるラストでした。