R・C・ウィルスン 公手成幸訳 『世界の秘密の扉』 創元SF文庫

世界の秘密の扉 (創元SF文庫)

世界の秘密の扉 (創元SF文庫)

 見えない扉を開いて、自分がいるところとは少し違う世界へと行く力をもつ三人姉弟。長女のカレンはその力を封じ込め、「ふつう」に暮らす道を選びました。しかし、カレンたち姉弟が幼いころに接触した、今いる世界の外からやってくる「灰色の男」の恐怖に、彼女の息子もさらされるようになります。
 カレンが、ずいぶん長いこと会わずにいた妹に会いに行くことから始まる、「灰色の男」からの逃亡の旅は、「自分たちにはどうしてこんな力が備わっているのか」を探る旅でもあります。それは、その力を使うたびに父親から暴力を伴う叱責を受けた、子ども時代と向き合うことにもつながっていきます。

あの子が生まれてこのかた、わたしはあの子によく注意して、ダディがわたしたちにやったようなことはやるまいと……あの子にはあんな人生を送らせないようにしようと思ってたの。でも、自分をごまかしていただけだった。(P.409)

 追いつかれたり逃げたりを繰り返す中で、因果な家族関係が浮かび上がってきます。この物語に登場する家族は、不思議な力を持つ子どもがいて、それを追う者がいるというのっぴきならない問題をしょっているけれど、それでなくても「家族」という人間関係は、特有のままならなさを抱え込んでいると思うのです。それがいい方にも悪い方にも転がることが描かれているように感じられて、そこがすごく好みでした。
 「幕間劇」で「灰色の男」側の世界もしっかり描かれているのもよかった。おもしろかったです。