あかい花

あかい花

 だいたい美枝は、このときまで、自分がどこから生まれたのか、まともに考えたこともなかった。自分が存在するのがあたりまえすぎて、まず自分があって、そして周囲が存在するように思っていた。自分以外は全て、自分のつけたしのようなものと受止めていた。
 ところが両親は、自分の知らない、自分の生まれたときの話をしている。自分を生んだのは両親だったのだ。両親があって、はじめて自分が生まれたのだ。美枝は、自分がここにいることが急に頼りなく思えてきた。世界の真中にいた自分が、隅のほうに押しやられていくのを感じた。(P.32 『思いどおりの人生』)