藤枝静男 『田紳有楽/空気頭』 講談社文芸文庫

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)

田紳有楽・空気頭 (講談社文芸文庫)

 川上弘美のエッセイに出てきたことがあって、気になっていたので読みました。

 私は池の底に住む一個の志野筒形グイ呑みである。(中略)暫くのあいだひねくりまわされたり出がらしの茶に漬けられたりしたあげく、玄関前の池に放りこまれてそのまま住みついている身の上である。(『田紳有楽』P.15)

 私にとって、肉親の見苦しい姿は、そのまま理屈抜きに私自身の醜さとして映る。それが他人の眼にさらされる苦痛にはほとんど堪えることができない。衝動的な羞恥から、私は肉親に怒りを感じる。そして胸を噛むような後悔と愛憐の情が、後になってまるで潮のように湧きあがって来る。(『空気頭』P.149)