嶽本野ばら 『下妻物語・完』 小学館

男のコのことは解らないけど、女のコって、何事に対しても全部、恋愛感情で動いちゃうんじゃないのかな。(P.316)

 ああここから次ページまで長々と引用したいくらい好きな場面なのだけれど、このへんでとめておきます。『下妻物語』と続編の『下妻物語・完』を最後まで読んでこそ胸に来る場面だと思うから。

 最初に読んだ嶽本作品は『ロリヰタ』だったのだけれど、主人公が大勢の人に誤解されて攻撃対象になって傷つくという展開はいやに胸が痛くなるから苦手なわたしとしては、表題作も併録作の『ハネ』も、苦手も苦手ど真ん中な話だったんです。それでずっと敬遠してて。
 あと、わたしは嶽本さんの書く乙女像がたいへん苦手だと、『ミシン』を読んで改めて思いました。……「自分を貫く」ことを最優先にしている、愛するお洋服を買うためなら親のお金を勝手に使い込むこともいとわない、そういうところが。わたしは、「教育」というものがどうしてもくっついてくる、だからどうしてもモラリスティックなものが多くなる*1児童文学にどっぷりつかり、さして反発を覚えることなくそういう心性を受け入れて育ってきたから……その価値観で「悪いこと」とされていることが悪いこととして描かれなかったり(本の中で、とはいえ)、「大事なこと」とされていることをまったくぞんざいに扱われたりすると、落ち着かないんですね……*2

 その点、『下妻物語』は、家の門限はきっちり守るし、「このへん農家で朝早い人が多いし、うるさくしたら迷惑だろ」と暴走行為も夜遅くまではやらないヤンキーちゃん・イチゴというキャラクターが投入されているおかげで、わたしの苦手な嶽本野ばら成分がずいぶん薄められており、読んでてとっても楽しかったです。

*1:全部が全部そうだとは決して言えない

*2:うまく言えないなあ。「悪いこと」とされていること、たとえば殺人が本の中で起きてるだけで悪い気分になったりはしないんだよ。それを「悪いこと」だと指摘する視点がまったく作中にまったくないと、嫌なのかなあ……主人公であれ語り手であれ登場人物の一人であれ、誰かにそれは「悪いこと」だという視線を持っていてほしいのかなあ……