佐藤多佳子 『神様のくれた指』 新潮文庫

神様がくれた指 (新潮文庫)

神様がくれた指 (新潮文庫)

 プロのスリ・辻牧夫と、占い師マルチェラこと昼間薫、それぞれの視点から交互に描かれていて、読み進めていくうちに二つの物語が重なっていく…というような構成でした。仕事をする上でのこだわりを持つ辻に、なんとなーく某泥棒の黒澤さんを連想したのも手伝って、ほんのちょっと、伊坂さんっぽいとか思いました。

佐藤多佳子 『ハンサム・ガール』 理論社

 バリバリ働いているママ。元プロ野球選手、今は専業主夫のパパ。両親のことを「まともじゃない」「みっともない」と思っている姉の晶子。語り手は、両親のことは大好きだけれど、「親はフツーのヤツがいい」という点では姉に賛成の妹の二葉です。そんな二葉が、野球チームに入ったことで、「女の子って損」だと思うようなことにめぐり合う一方で、ママの仕事やパパの心境も少しずつ変化していっていました。
 野球チームに参加することや、パパが出かけている間に家事をやってみることで、「男社会」の中にいるママの大変さや、パパのすごさに気づき、二人の生き方への理解を深める二葉。悩みの種もたくさんあるけれど、たぶん彼女は、「みんな好きなことをやるために、なんとかがんばってきた」家族を維持するのに協力することを選んだのですね。
 二葉が、ものわかりのいいだけの子どもなのではなく、「パパが家事をしているなんて、周りに知られるのが恥ずかしい」という気持ちも行動に表してしまう箇所もあるところが、いいなあと思うのでした。

予想していたのとはぜんぜんちがった。何か劇的なことが必要だと思ったの。例えば試合で大活躍して男の子たちが感心して仲間に入れてくれる、なんてね。でも、ちがう。小さな毎日の積みかさね。暑い夏休みに毎日毎日グラウンドに出かけ泥まみれ汗まみれでいっしょに練習する。そうやって、わたしは“ヒーロー”にも“男の子”にもならずに、アリゲーターズの一員になれたみたい……。(P.127-8)