本にまつわるいくつかの出来事

 とある本屋さんの誤字がとっても気になる。「島本理生」が「島本理緒」にだし「豊島ミホ」が「豊島ミネ」だし*1。「理緒」はなあ……まだ、誤変換かな、って気がするけれど(それでもやっぱりちゃんと確認してほしいけれど)、「ミネ」って。一字違うだけだけで、すごく「おばあちゃん」な感じの名前になるなあ……。

 学校帰りの電車の中で、サラリーマン風の男性(推定50代)が読んでいたカバーのかかった文庫本の中の、「大きな引き出し」という文字がふと目に入りました。わあ恩田陸だー、『光の帝国』だー。その本わたし大好きなんですー、と心の中で言いました。

 そういえば夏休み、帰省するために乗った飛行機の中で、隣の席に座っていたスーツ姿の男性(推定30代)が読んでいた文庫本は『太陽の塔』(森見登美彦新潮文庫)だったなあ。そ、それおもしろいですよね……と話しかけたい衝動に駆られてしまった(実行できなかったけれど)。

*1:手書きPOPとかじゃなくて、なんて言えばいいのかな、棚にある作家名別の見出しというか仕切りというか

夏目漱石 『門』 新潮文庫

門 (新潮文庫)

門 (新潮文庫)

「どうも字と云うものは不思議だよ」と始めて細君の顔を見た。
「何故」
「何故って、幾何容易い字でも、こりゃ変だと思って疑ぐり出すと分らなくなる。この間も今日の今の字で大変迷った。紙の上へちゃんと書いて見て、じっと眺めていると、何だか違った様な気がする。仕舞には見れば見る程今らしくなくなって来る。――御前そんな事を経験した事はないかい」(P.7-8)

彼等の命は、いつの間にか互の底にまで喰い入った。二人は世間から見れば依然として二人であった。けれども互から云えば、道義上切り離す事の出来ない一つの有機体になった。二人の精神を組み立てる神経系は、最後の繊維に至るまで、互に抱き合って出来上っていた。彼等は大きな水盤の表に滴たった二点の油の様なものであった。水を弾いて二つが一所に集まったと云うよりも、水に弾かれた勢で、丸く寄り添った結果、離れる事が出来なくなったと評する方が適当であった。(P.186)