アーモンド入りチョコレートのワルツ(森絵都)/角川文庫

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

アーモンド入りチョコレートのワルツ (角川文庫)

 3つの短編が収録されています。電話でこの本のことを話したとき、「アーモンド入りチョコレートのワルツ」と言おうとして、「アーモンド入りのチョコレートワルツ」と言ってしまいました。



【子供は眠る】
 夏のにおいがつんと立ちのぼってくるような作品。
 知ってしまってから、知ろうとしなかったことに愕然とすることって、ありますね。



【彼女のアリア】
 「旧校舎」ということばのひびきに漠然とした憧れがあります。「旧校舎での出会い」とか言っちゃったらどきどきやときめきが2倍になります(笑)。教室の風景とか、廊下の隅の埃とか、セーラー服とか・・・学校の風景がセピア色になってくっきり浮かんでくる作品。 ラストにたどりつくまでの数ページは、何度読んでもきゅんとしてしまう。 



【アーモンド入りチョコレートのワルツ】
 たいていの生徒が「へんな人」と決めつけて距離を置いてしまうようなピアノの先生、絹子先生の「へんなところ」をおもしろがることができた、語り手の奈緒とその友達の君絵。そこへ乱入といっていい入りこみ方をした、謎のフランス人サティのおじさん。彼の覚えた数少ない日本語のひとつが「ンダンダ」だったというくだりにふきだしてしまいました。
 「よく言えば個性が強く、悪く言えばあくが強かった(P.138)」と称される君絵もかなり突飛な行動を見せます。13歳にしてサティのおじさんを駆け落ちに誘ってしまうのですから(笑)。でも、「負けるもんかと、だれにどう思われても負けるもんか(P.192)」と常に訴えているような言動、強い態度を示しながら、時たま彼女が抱えているであろうさまざまな想いが見え隠れして、切ないです。
 強烈な個性を持つ人々に囲まれて、ひそかにコンプレックスをもつ奈緒の気持ちもわかる気がします。
 


 この3遍のの中では、『彼女のアリア』がいちばん好き。



 あと、角田光代さんの解説もすっごくよかった。

 森さんの小説のやさしさというのは、肯定だと私は思っている。(中略)
 これはまぎれもない肯定だ。それが自分を守っているから受け入れるのではない、美しいから認めるのではない、醜くても意味がなくとも、自分に利点なんかなんにもなくても、それがそこにすでにある、だから腕を広げて受け入れる。森さんの小説を貫いているのは、この肯定ではないかしらと、私はいつも思う。

 こ、これだー!と思いました。わたしがカラフルについて書いたとき言いたかったこと、読んでいて感じた肯定される嬉しさっていうのは、こういうことなんだー、と。