坂木司 『青空の卵』 創元推理文庫

青空の卵 (創元推理文庫)

青空の卵 (創元推理文庫)

 ううーん。最初の『夏の終わりの三重奏』を読んだとき、どうも、「人間にはいい面と悪い面がある」ではなく「人間には善人と悪人がいる」というふうに描かれているように思えて、そこが好きになれませんでした。鳥井が「ひきこもりがちの人間嫌い」の理由である、母親の不在やいじめにしろ、日常の謎を解き明かしていくうちに出てくる「生きていく上での幸福は、誰かとわかちあう記憶の豊かさにあると僕は思う(P.70)」という坂木の述懐にしろ、「この時代、正しくあるのは難しいんだよ(P.381)」という鳥井の台詞にしろ、なんだか、安易に使われている気がしました。
 ……「安易」はちょっと言いすぎだなあ。薄っぺらいとか、上っ面だけとか、そういうわけではないけれど、描かれ方にちょっと重さが足りない、というか。ずっしりくるところのはずなのにずっしりこない描き方な気がする……という違和感が、終始ぬぐえませんでした。鳥井と坂木の関係も、魅力的に思えなくて。
 あ、けなしてばっかりですが、感覚的にちょっぴり合わないなあ……と思った部分が多かっただけで、話はおもしろかったのです。続編の『仔羊の巣』『動物園の鳥』も読みたい。