森見登美彦 『きつねのはなし』 新潮社

きつねのはなし

きつねのはなし

昔はね、僕はうまく喋ることができなかった。人と喋ろうとしてもすぐ言葉に詰まる。それがなぜなのか、よく分からなかった。ただ自分の言葉が、嘘くさいんだ。嘘くさくて白々しくて、耐え難いんだ。大学に入ってからもひどくなる一方で、喋ることができない。それで人に会うのが嫌になって、下宿に籠もるようになったんだ。(P.124)

収録作品:『きつねのはなし』 『果実の中の龍』 『魔』 『水神』