穂村弘 『もうおうちへかえりましょう』 小学館

もうおうちへかえりましょう

もうおうちへかえりましょう

「体だけでなく、心も自由にした方が楽しいから」
 私の答えの非道さに、女性陣からはあきれかえったようなブーイングが起こったが、吉野さんだけは、ふっと笑ってこう云った。
「最初からそう云えばいいんだよ」
 私はがくっとうなだれた。このひとは知っているのだ。俺が、いや、人間がそういう「とんでもないもの」だということを。(中略)
 今回文庫化された『恋愛的瞬間』は、そんな吉野さんの凄みが充分に感じられる秀作である。恋愛における恐怖体験が満載。「とんでもないもの」同士が当事者になる恋愛とは、どんなことでも起こりうる、裏返しのホラーであることを改めて思い知らされる。(P.29-30)