島本理生 『生まれる森』 講談社文庫

生まれる森 (講談社文庫)

生まれる森 (講談社文庫)

そばにいると苦しくてたまらないのに、離れようとすると大事なものを置き去りにしているような気持ちになった。(P.40)

理解できないのは経験がないせいではなく、自分はそんな状態に陥る人間ではないからだと信じていた。(P.65)

彼を少しでも救うことができれば、一丁前にそんなことを思ったりもしたけれど、ひかれればひかれるほど、深みに足を取られていく自分を感じた。(P.96)

「わたしはあの人に幸せになってもらいたかったんです。眠る前に新しい朝が来ることを楽しみに思うような、そんなふうになってもらいたかった。けど、わたしには無理だった。
 その力不足を未だに認めたくないのかもしれないです」
「自分が他人を幸福にできるなんて発想は、そもそも行き過ぎなのかもしれないよ」
(中略)
「幸せにしたいと思うことは、おそらく相手にとっても救いになる。けど、幸せにできるはずだと確信するのは、僕は傲慢だと思う」
(P.123-124)

 どんなに明るいほうに戻ろうと手を引いても、気がつくと一緒に深い森の中に戻っている、抜け出す努力を放棄したまま大人になってしまったこの人と十年も二十年も一緒にいるなんて冗談じゃないと、そんなふうに心の一番深いところでは、思っていたのかもしれない。(P.130)

 読む時期によって響いてくる箇所が違うなあと思いつつ大量引用。